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Syndic Literary Journal

Poem ∼ “Remembering 9/11” by Taki Yuriko ∼ Page 2

Taki Yuriko  ∼ Remembering 9/11 ∼ Japanese Text & Narration

 

9.11遺族たちの平和運動                  

多喜百合子

 

2001911

世界貿易センター(WTC)内 外にいた人たちは

ビルが あんなに すぐ崩れるとは だれも 感じていなかった。

非常階段も 順序よく降り、救助に駆け上がってくる

消防隊員にも道を譲っていた。

 

数分後 超高層ビル世界貿易センターの上部の窓という窓からは 

たくさんの人が助けを求めて

体をのりだしてきた。

布を振っている人も いた。

そのうち ポロポロと 人が落ちてきた。

たいていは手を広げて、

手足を平泳ぎのようにする人、

足をクロスし 身を固くして落ちる人、

数人一緒に落ちる人、

スカイダイビングのようにある方向に向かおうとしながら落ちる人。

意を決して飛び降りる人のいるフロアーも 

そのはるか下の方に見える地面も地獄だった。

人が地面に打ち付けられてまるでスイカを落としたように砕けた。

 

エレヴェーターに閉じ込められたままの人

宙ずりになってじっと死を待つだけだった。

 

9.11から3日経った。

世界中の目がグランドゼロを じっと見つめていた。

がれきの中でまだ生きている人がいるかもしれない、と。

 

死者3000人あまり、救助にあたった消防隊員もたくさん亡くなった。

あの日 被害者の数だけ 遺族も生まれた。

ハイジャックされた飛行機に乗っていた人も含め

24人の日本人も犠牲となった。

 

その中のひとり、白鳥さんは 息子の敦さん(享年36歳)を亡くした。

息子さんは 貿易センタービルの北棟の105階で 仕事をしていた。

高校卒業後 アメリカの大学に留学、そのままアメリカで 職を得て

金融マンとして順風満帆な日々を送っていた。

東京で居酒屋を営む白鳥さんにとって自慢の息子だった。

 

9.11テロは3000人も殺されたからといって

侵略戦争とは言えない。

大規模の犯罪、殺人事件、テロ事件だ。

だから 国際法で認められている「自衛のための戦争」は 成り立たない。

従来なら 殺人事件なのだから、

警察力を行使して、国際間の取り組みで犯人を見つけ出し、

身柄拘束し、刑事裁判にかけ、証拠に基づき

司法の制度の中で適正な処罰をする案件だ。

 

だが アメリカ政府は

法治国家としての その大事な基本的手続きを飛ばして

いきなり戦争で対応した。※1

捜査もなしで「Remember 9.11」、9.11を忘れるな とばかりに

復讐に走ってしまった。

いきなり暴力を奮ってしまった。

結果、テロという犯罪行為、殺人事件を 

国と国との戦争のレヴェルにまで

引き上げてしまった。

 

9.11が「テロとの戦争」と呼ばれ

世界が国際法の秩序から逸脱して動き出してしまった

歴史の転換点になってしまった瞬間だ。

 

さらに 2003

アメリカ政府は 復讐から 一歩踏み出し 防止まで 戦争の大義とした。

アメリカ人を ひとりも殺したことのない国

イラクにまで 

攻撃をしかけ正当化した。

核兵器が あるといいがかりをつけて。

日本政府も アメリカのイラク侵攻を 支持した。

 

2003年から2008年までの民間人死者 WHOの発表によると

151000

さらに2011年までで 

ワシントン大学   AmmyHagopian チームによる調査 では 

累計40万人超 

Plos Medicine、およびNational Geographic news 2013.10.7日本版)に

膨れ上がる。

アフガニスタンの死者3万人を合わせると少なくとも45万人近くの市民が死んだ。

アメリカおよび 有志連合の国々の兵士もイラクだけで5000人近く死んだ。

死者の数だけ 遺族が生まれた。

 

テロ防止の名のもと

アメリカ国民にも 監視の目が強化された。

9.11以後 わずか45日で 出された

米国愛国者法=テロ防止法(USA PATRIOT Act)だ。

病歴、預貯金 と言った 個人情報 ばかりか 

国民の通信傍受が合法化され 図書館で借りた本の記録まで残る。

ひとりひとりが 頭の中で考えたことまで全て監視される。

 

個人も 人権意識が 侵され、自分の安全が最優先され 

イスラム教徒の人たちを

一括りにして 差別するような風潮が 高まった。

 

            ☆

 

ピースフル・トゥモローズ((peacefultomorrows)は

9、11テロのアメリカ人犠牲者の遺族が設立した団体だ。

「私達遺族の悲しみを利用して 政治家が軍事行動を正当化している」

と 国連で 訴えた。

「私達の愛する人々はたまたまその時そこにいたために、9.11で死んでしまった。アメリカ政府の率いる空爆の犠牲となった罪のないアフガニスタンの人々も同じです。世界中どこの国の人にも私達と同じ悲しみを経験してほしくないのです。」

そう言って アフガニスタンの被害者を支援している。

 

9.11の被害者のアメリカ人の遺族が

アメリカ政府によって殺されたアフガニスタン市民の被害者を支援している。

 

アフガニスタン、イラクからの帰還兵 兵士 戦死者家族も動きはじめた。

平和と正義のための連合United for Peace and Justiceによると戦争を止め、人種差別を終らせるためというスローガンのもと ANSWER連合(、Act Now to Stop War and End Racism)が組織された。

この行動の主な発起団体として、「平和のための退役軍人会」(Veterans For Peace)や「戦争に反対するイラク帰還兵の会」(Iraq Veterans Against the War)といった帰還兵の団体、そして「発言する兵士家族の会」(Military Families Speak Out)や「平和のための戦死者家族の会」(Gold Star Families for Peace)など が 名を連ねている。

 

前述の日本の遺族のひとり

白鳥さんは 深い悲しみに打ちひしがれながらも

「テロリストたちが 無差別の攻撃をするまでに至った背景を知りたい」と

思うようになった。

「現地に行こう、アフガニスタンの人たちと直接 会って聞いてみよう」

そう思い立ってアフガニスタンに行くと アメリカ軍の誤爆で親族を亡くした人たち、クラスター爆弾で歩けなくなった子供たちがいた。

自らの悲しみの中で白鳥さんが見つけた一つの答え。

「テロや憎しみの連鎖をなくすには 心の交流しかない」

 

テロから10年経った20119月、世界貿易センター(WTC)があった「グランドゼロ」に911記念博物館ができた。除幕式に白鳥さんも遺族として駆けつけた。式にはオバマ大統領とブッシュ元大統領の姿があった。

白鳥さんは自分で作った英文メッセージカードを手にして臨んだ。

「爆撃だけでは テロはなくならない」との思いからだ。

ボードには

「ブッシュ元大統領 私の息子は911テロで殺されました。イラクやアフガニスタンの子供は今でも苦しんでいます。あなたにとって正義とは何ですか」 と英文で書いた。

My Son was killed by

Children in Iraq and

Afghan are still suffered.

What is the Justice

For you?」

死んだ息子敦さん の遺産 そして 同時多発テロ犠牲者の基金からの補償金を使って白鳥さんはアフガニスタン再建のための基金を創設した。アフガニスタンに浄水器や太陽光パネルなどを提供し、現地の女子校などに備品も供給。メモリアルパークを作るため2000平方メートルの敷地も確保した。

ここでも9.11の日本人の被害者の遺族が

アメリカ政府によって殺されたアフガニスタン市民の被害者を支援している。

               

アメリカ人 マイケル・ムーア監督の映画「華氏 911の中でのせりふ。

戦争は大企業にとって とても おいしい。

破壊するために 兵器が大量に売れるし

復興事業にも莫大な利益が上がる。

しかも 支払いは確実、なにしろ相手は政府なのだから。

その財源もたしか なにしろ国民がはらってくれる税金なのだから。

壊しては 作る 壊しては作るを くりかえす。

核戦争でさえなければ いいのだ。

大企業にとって 戦争の目的は終わらないこと、

絶えず どこかで 戦争が起きていること。

大企業が これだけ儲かるのだから 無駄死になんてひとつもない、 と。

 

シリア出身の記者が言った。

9.11も 中東の問題も 

宗教の問題にすりかえるな、と。

その途端、すべてが止まってしまう。

何もみえなくなってしまう、と。

 

ある日本人の中東専門の学者が言った。

意外にもISに入る人たちは イスラム教のことを知らない。

IS自身が新参者の兵士に行ったアンケートの結果によると

彼らのイスラム教に関する知識は初等レベルしかない。

推察するに

それまでの自分の生活で鬱屈を抱えていた人たちが

単に暴れるだけでは 犯罪になるから

テロ組織ISに入って戦争のように振る舞い 

兵士を装って暴れているのが現実だ。

 

何しろ テロをアメリカ政府が 単なる犯罪から 

戦争に格上げしてくれたから

実行犯なるテロリストも  兵士のように英雄になれるから と。 

 

注釈

1 

FBIのホームページにはオサマ・ビンラディンの名を「アメリカ同時多発テロ」「9.11テロ事件」の 首謀者としては 一切書かれていない。

https://www.fbi.gov/file-repository/stats-services-publications-terror-terror00_01.pdf/view14ページから15ページ参照

当時のブッシュ大統領はなんの証拠も示されない事件当日から、オサマ・ビンラディンの名を犯人としてあげ 更に3日後にはアメリカ政府は「オサマ・ビンラディン率いる国際テロ組織アルカイダの19人のアラブ人が4機の民間航空機をハイジャックして犯行に及んだ」と断定した。

※2 

9.11から16年経った日本でもオリンピックを控えてテロ防止のためという理由で共謀罪=日本版テロ防止法USA PATRIOT Actが法制化してしまった。テロ防止のためなら という理由で 日本国民の人権も自由もどんどん減り政府に都合のよい監視社会に移行している。

 

 

 

 

Compiled/Published by LeRoy Chatfield
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